○瑕疵担保責任の法的な性質,167条1項の適用(積極)
 最判平成13年11月27日民集55巻6号1311頁,判例時報1769号53頁(破棄差戻)
 (事実の概要)昭和48年2月18日,X(被上告人)はYから本件宅地とその地上建物等を買い受け,その代金を支払った。同年5月9日,本件宅地につきYからXへの所有権移転登記がされ,そのころ,XはYからその引渡しを受けた。
 本件宅地の一部には,柏市昭和47年10月27日第157号をもって道路位置指定がされている。このため,本件宅地上の建物の改築に当たり床面積を大幅に縮小しなければならないなどの支障が生ずるので,道路位置指定がされていることは,民法570条にいう「隠レタル瑕疵」に当たる。(原審認定)
 Xは,平成6年2月ないし3月ころ,上記道路位置指定の存在を初めて知り,同年7月ころ,Yに対し,道路位置指定を解除するための措置を講ずるよう求め,それができないときは損害賠償を請求する旨を通知した。
 その後,XはYに対して瑕疵担保による損害賠償を求めた。Yは,Xの損害賠償請求権は時効により消滅したと主張し,本訴において消滅時効を援用した。
 (原審)一部認容。「売主の瑕疵担保責任は,法律が買主の信頼保護の見地から特に売主に課した法定責任であって,売買契約上の債務とは異なるから,これにつき民法167条1項の適用はない。また,同法570条,566条3項が除斥期間を定めているのは,責任の追及を早期にさせて権利関係を安定させる趣旨を含むものであるが,他方で,その期間の起算点を「買主カ事実ヲ知リタル時」とのみ定めていることは,その趣旨が権利関係の早期安定だけでないことを示しているから,瑕疵担保による損害賠償請求権に同法167条1項を準用することも相当でない。このように解さないと,買主が瑕疵の存在を知っているか否かを問わずに損害賠償請求権の時効消滅を認めることとなり,買主に対し売買の目的物を自ら検査して瑕疵を発見すべき義務を負わせるに等しく,必ずしも公平といえない。」
 (判決理由)
 (1)買主の売主に対する瑕疵担保による損害賠償請求権は,売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であって,これが民法167条1項にいう「債権」に当たることは明らかである。この損害賠償請求権については,買主が事実を知った日から1年という除斥期間の定めがあるが(同法570条,566条3項),これは法律関係の早期安定のために買主が権利を行使すべき期間を特に限定したものであるから,この除斥期間の定めがあることをもって,瑕疵担保による損害賠償請求権につき同法167条1項の適用が排除されると解することはできない。さらに,買主が売買の目的物の引渡しを受けた後であれば,遅くとも通常の消滅時効期間の満了までの間に瑕疵を発見して損害賠償請求権を行使することを買主に期待しても不合理でないと解されるのに対し,瑕疵担保による損害賠償請求権に消滅時効の規定の適用がないとすると,買主が瑕疵に気付かない限り,買主の権利が永久に存続することになるが,これは売主に過大な負担を課するものであって,適当といえない。
 したがって,瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり,この消滅時効は,買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行すると解するのが相当である。」
 本件においては,XがYに対し瑕疵担保による損害賠償を請求したのが本件宅地の引渡しを受けた日から21年余りを経過した後であるから,Xの損害賠償請求権については消滅時効期間が経過している。Yによる消滅時効の援用が権利の濫用に当たるとのXの再抗弁等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻す。

〔参考判例:損害賠償請求権の消滅時効の起算点〕
  ○最判平成10年4月24日判例時報1661号66頁(破棄差戻)
(事実の概要)
 被上告人(買主X)は上告人Yの先代との間で農地の売買契約を締結し,Xを権利者とする条件付所有権移転仮登記を経由していた。ところがYは確定判決により右仮登記の抹消登記を経由した上で本件土地を第三者に売却して所有権移転登記を経由した。XはYに対し履行不能による損害賠償を求めた。
1 Xは,昭和三九年三月一二日,Yの父との間で,当時農地であった同人所有の本件土地を代金二〇〇万円で買い受ける旨の契約を締結し,そのころ,右代金全額を支払うとともに,本件土地につき,同月一三日受付でXを権利者とする条件付所有権移転仮登記を経由した。
2 Yの父は,昭和五一年九月ころ,本件契約に基づく所有権移転義務を履行するため,本件土地を農地から転用する手続を試みたものの果たせなかったが,Xは,そのころ,Yの父に対し,右手続に要する費用の負担及び本件契約締結後の本件土地に係る固定資産税の精算のために,仲介業者を介して二二万円を支払った。
3 Yの父は,昭和五四年七月二二日死亡し,相続人であるYが本件土地及び本件契約に関する一切の権利義務を承継した。
4 Yは,昭和六三年六月,Xを被告として,本件仮登記の抹消登記手続を求める訴訟を名古屋地方裁判所に提起し,右訴状において,本件契約に基づく本件土地についての所有権移転許可申請協力請求権の消滅時効を援用した。右訴訟においては,Xの住居所が不明であるとして,公示送達により手続が進められ,同年九月二七日,Y勝訴の判決が言い渡されて確定した。Yは,右確定判決に基づき,昭和六三年一〇月二四日,本件仮登記の抹消登記を経由した。
5 Yは,昭和六三年一二月九日,本件土地をAに売り渡し,同人に対する所有権移転登記を経由した。
6 Yは,Xに対し,平成五年一月二五日ころ,本件契約に基づく所有権移転許可申請協力請求権につき消滅時効を援用した。
 (高裁判断)本件契約に基づく所有権移転許可申請義務を含む所有権移転義務は,Yが昭和六三年一二月九日にAに本件土地を売却してその旨の所有権移転登記を経由したことにより,履行不能となった。Yが平成五年一月二五日ころにした本件契約に基づく所有権移転許可申請協力請求権についての消滅時効の援用は,右売却後にされたものであるから,履行不能による損害賠償請求権の帰すうを左右しない。Xの請求認容。
(判決要旨)
1.「契約に基づく債務について不履行があったことによる損害賠償請求権は,本来の履行請求権の拡張ないし内容の変更であって,本来の履行請求権と法的に同一性を有すると見ることができるから,債務者の責めに帰すべき債務の履行不能によって生ずる損害賠償請求権の消滅時効は,本来の債務の履行を請求し得る時からその進行を開始するものと解するのが相当である(大審院大正八年(オ)第五八五号同年一〇月二九日判決・民録二五輯一八五四頁,最高裁昭和三三年(オ)第五九九号同三五年一一月一日第三小法廷判決・民集一四巻一三号二七八一頁参照)。」
 2.「前記事実関係の下においては,Yが本件土地を高見に売却してその旨の所有権移転登記を経由したことにより,本件契約に基づくYの売主としての義務は,Yの責めに帰すべき事由に基づき履行不能となったのであるが,これによって生じた損害賠償請求権の消滅時効は,所有権移転許可申請義務の履行を請求し得る時,すなわち,本件契約締結時からその進行を開始するのであり,また,Yが平成五年一月二五日ころにした消滅時効の援用は,本来の履行請求権とこれに代わる損害賠償請求権との法的同一性にかんがみれば,右損害賠償請求権についての消滅時効を援用する趣旨のものと解し得るものである。そうすると,右損害賠償請求権は,格別の事情がなければ,Yの右時効の援用によって消滅することとなるはずのものである。」「Yのした消滅時効の援用が履行不能による損害賠償請求権の帰すうを左右しないとして,直ちにXの本件請求を認容すべきものとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法が(ある)」。
 3.「もっとも,本件においては,前示時効の進行開始後においてこれを阻害する事由が存在したこと及びYにおいて消滅時効を援用することが信義則に照らして許されないと認めるべき特段の事情があること等が主張されており,これらの点につき更に審理を尽くさせる必要があるので,右破棄部分につきこれを原審に差し戻すのが相当である。」

 批判:
@債務不履行に基づく損害賠償請求権は,415条の成立要件を満たす事実の発生よって新たに発生する法定債権である。
A415条の要件事実である「損害」発生時から消滅時効は進行する。
Bそうすると,不履行時または「権利行使が現実に期待できる時」から時効は進行する。

〔原状回復義務の不能による損害賠償義務と消滅時効〕
○最判昭和35年11月1日民集14巻13号781頁
 「商事契約の解除による原状回復(本件では特定物の返還義務)は商事債務であり、その履行不能による損害賠償義務も同様商事債務と解すべきである。そして右損害賠償義務は本来の債務の物体が変更したに止まり、その債務の同一性に変りはないのであるから、商事取引関係の迅速な解決のため短期消滅時効を定めた立法の趣旨からみて、右債務の消滅時効は本来の債務の履行を請求し得る時から進行を始めるものと解すべきである。」

〔安全配慮義務違反と消滅時効〕
 ○長崎じん肺訴訟・最判平成6年2月22日民集48巻2号441頁(一部破棄差戻)
 「雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、民法一六七条一項により一〇年と解され(最高裁昭和四八年(オ)第三八三号同五〇年二月二五日第三小法廷判決・民集二九巻二号一四三頁参照)、右一〇年の消滅時効は、同法一六六条一項により、右損害賠償請求権を行使し得る時から進行するものと解される。そして、一般に、安全配慮義務違反による損害賠償請求権は、その損害が発生した時に成立し、同時にその権利を行使することが法律上可能となるというべきところ、じん肺に罹患した事実は、その旨の行政上の決定がなければ通常認め難いから、本件においては、じん肺の所見がある旨の最初の行政上の決定を受けた時に少なくとも損害の一端が発生したものということができる。
 しかし、このことから、じん肺に罹患した患者の病状が進行し、より重い行政上の決定を受けた場合においても、重い決定に相当する病状に基づく損害を含む全損害が、最初の行政上の決定を受けた時点で発生していたものとみることはできない。すなわち、前示事実関係によれば、じん肺は、肺内に粉じんが存在する限り進行するが、それは肺内の粉じんの量に対応する進行であるという特異な進行性の疾患であって、しかも、その病状が管理二又は管理三に相当する症状にとどまっているようにみえる者もあれば、最も重い管理四に相当する症状まで進行した者もあり、また、進行する場合であっても、じん肺の所見がある旨の最初の行政上の決定を受けてからより重い決定を受けるまでに、数年しか経過しなかった者もあれば、二〇年以上経過した者もあるなど、その進行の有無、程度、速度も、患者によって多様であることが明らかである。そうすると、例えば、管理二、管理三、管理四と順次行政上の決定を受けた場合には、事後的にみると一個の損害賠償請求権の範囲が量的に拡大したにすぎないようにみえるものの、このような過程の中の特定の時点の病状をとらえるならば、その病状が今後どの程度まで進行するのかはもとより、進行しているのか、固定しているのかすらも、現在の医学では確定することができないのであって、管理二の行政上の決定を受けた時点で、管理三又は管理四に相当する病状に基づく各損害の賠償を求めることはもとより不可能である。以上のようなじん肺の病変の特質にかんがみると、管理二、管理三、管理四の各行政上の決定に相当する病状に基づく各損害には、質的に異なるものがあるといわざるを得ず、したがって、重い決定に相当する病状に基づく損害は、その決定を受けた時に発生し、その時点からその損害賠償請求権を行使することが法律上可能となるものというべきであり、最初の軽い行政上の決定を受けた時点で、その後の重い決定に相当する病状に基づく損害を含む全損害が発生していたとみることは、じん肺という疾病の実態に反するものとして是認し得ない。これを要するに、雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は、最終の行政上の決定を受けた時から進行するものと解するのが相当である。」

 ○福岡じん肺訴訟・最判平成16年04月27日(上告棄却)
 (事案)筑豊地区に所在する二瀬炭鉱,嘉穂炭鉱等で粉じん作業に従事していた者(被上告人)が粉じん作業よりじん肺にり患したとして,会社(上告人)に対し,「雇用者として,坑内作業場における適切な粉じん対策を講ずるなどして従業員がじん肺にり患し又は増悪させることのないように配慮すべき義務」があるのにこれを怠ったと主張して安全配慮義務違反を理由とする損害賠償を求めた。
 (判決理由)「雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺にかかったことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は,じん肺法所定の管理区分についての最終の行政上の決定を受けた時から進行すると解すべきであるが(最高裁平成元年(オ)第1667号同6年2月22日第三小法廷判決・民集48巻2号441頁),じん肺によって死亡した場合の損害については,死亡の時から損害賠償請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である。なぜなら,その者が,じん肺法所定の管理区分についての行政上の決定を受けている場合であっても,その後,じん肺を原因として死亡するか否か,その蓋然性は医学的にみて不明である上,その損害は,管理二〜四に相当する病状に基づく各損害とは質的に異なるものと解されるからである。」
 「(上告理由)論旨は,じん肺法所定の管理二の行政上の決定を受けた後,10年以上を経過してからじん肺により死亡した元従業員に関し,管理二に相当する病状に基づく損害賠償請求権は,時効により消滅しているから,認容すべき慰謝料額は,じん肺による死亡に基づく損害の慰謝料相当額から管理二に相当する病状に基づく損害の慰謝料相当額を控除した金額とすべきであるというものである。
 そこで,この点について判断するに,原審の確定した事実関係の下で,原審は,当該元従業員の損害を,管理二に相当する病状に基づく損害とは別個のものであるとして,これを,じん肺による死亡それ自体に係る損害として評価し,その額を定めたものであり,このような場合についてまで,上記の消滅時効に係る慰謝料相当額を控除しなければならないものではない。」