第16回国会参議院本会議35号 1953年8月6日開会
○堂森芳夫君
(略)
次に、らい予防法案に関する報告を申上げます。
「らい」は、慢性の伝染性疾患でありまして、一たびこれにかかりますると根治することが極めて困難なる疾患であります。これは公衆衛生の立場からも、又公共福祉の面からも、極めて重大な問題であるばかりではなく、患者は勿論、その家族がこうむります社会的不幸は測り知れない、ものがあるのであります。この「らい」の予防を図りますために明治四十年に癩予防法が制定され、爾来この法律によつて、「らい」の予防施策が実施されて参つたのでありまするが、何分この法律は約五十年前の制定に係るものでありますため、その後、数次の改正を加えてはおりますものの、今日の実情にそぐわないと認められる点もありますので、これを全面的に改正したらい予防法を新たに制定しようとするものであります。この法案の主なる内容は、おおむね次の通りであります。第一は、「らい」を伝染させる虞れのある患者に対し、先ず勧奨により、本人の納得を得て療養所へ入所させることを原則とし、これによつて目的を達しがたい場合に入所を命じ或いは直接入所させる等の措置がとられることとなつております。第二は、療養所に入所しておる患者は、「らい」予防の見地から、法令により出頭を要する場合及び所長が許可した場合を除いては、当該療養所から外出してはならないこととしております。
第三は、入所患者が当該療養所内の秩序を乱しました場合、これについて一般の施設におけると同じ退所の処分を行うことができませんので、所長が、秩序維持の手段として戒告又は謹慎の処分を行い得ることとしてあります。
第四は、患者及び家族の福祉を図り、併せてこれによつて「らい」予防対策の円滑な推進を図りますために、患者及び家族の福祉措置についての規定を設けております。その他「らい」の予防に関しまして必要な規定が設けられております。
厚生委員会におきましては、直ちに「らい」に関する小委員会を設置し、法案を付託してその慎重審議を期しました。
小委員会は七月九日以来熱心なる審議を軍ねること十二回、この間、或いは多摩全生園に出張して親しく患者の意見を徴し、或いは本委員会に移して参考人の意見を聴取する等、これが計議に全力を傾倒したのであります。又、厚生委員会におきましては、本問題の基本的事項について熾烈なる追及が行われ、厚生大臣は、患者家族の生活援護については、生活保護法とは別建の国の負担による援護措置を定め、昭和二十九年度から実施することに努力する、国立の「らい」に関する研究所を設置することについても、同様、昭和二十九年度から着手したいとの一言明がありました。以上の詳細については速記録を御覧願います。
かくて質疑を打切り、討論に入りましたところ、藤原委員より社会党第四控室を代表し、本案に反対の意を表せられ、患者の人権尊重、福祉に対する考慮がなく、職員の特殊勤務にも措置がなく、法案全体を通じて何らの進歩的な面が見られないとの発言がありました。有馬委員よりは改進党を代表し賛意を表せられ、治療の万全を期し、予防の徹底を期するため、患者に対する入所の建前をとらなければならないが、その手段方法についての欠陥は改善に努力すべき旨が要望されたのであります。山下委員よりは社会党第二控室を代表して反対の意を表せられ、本案は取締り強化的のものがその正体であり、国家の「らい」対策の責任が不明で、人権擁護の点も稀薄であると述べられました。大谷委員よりは自由党を代表して賛意を表せられ、鬼手仏心の立場から患者の療養を考慮しなければならないが、その自由の制限と家族の生活援護については附帯決議の実現に期待するとのことでありました。常岡委員よりは緑風会を代表して本案に賛意を表せられ、不満ながら旧法より一歩前進しておることを認めるが、なお改善に努力すべきことを念願するとのことでありました。高野委員は本案に賛意を表し、本病の根絶について、医学、薬学の研究を更に助成すべき旨を強調されました。
討論を終結し、採決に入りましたが、多数を以て衆議院送付案の通り可決すべきものと決定いたしました。
なお、常岡委員より次の附帯決議を附すべき動議が提出され、採決の結果、全会一致を以てこれを採択することに決定いたしました。附帯決議を朗読いたします。
附帯決議
一、患者の家族の生活援護については、生活保護法とは別建の国の負担による援護制度を定め、昭和二十九年度から実施すること。
二、国立の「らい」に関する研究所を設置することについても同様昭和二十九年度から着手すること。
三、患者並びにその親族に関する秘密の確保に努めると共に、入所患者の自由権を保護し、文化生活のための福祉施設を整備すること。
四、外出の制限、秩序の維持に関する規定については、適正慎重を期すること。
五、強制診断、強制入所の措置については、人権尊重の建前に基き、その運用に万全の留意をなすこと。
六、入所患者に対する処遇については、慰安金、作業慰労金、教養娯楽費、賄費等につき、今後その増額を考慮すること。
七、退所者に対する更生福祉制度を確立し、更生資金支給の途を講ずること。
八、病名の変更については十分検討すること。
九、職員の充実及びその待遇改善につき一段の努力をすること。
以上の事項につき、近き将来、本法の改正を期すると共に、本法施行に当つては、その趣旨の徹底、啓蒙、宣伝につき十分努力することを要望する。
以上御報告いたします。(拍手)
○議長(河井彌八君) らい予防法案に対し討論の通告がございます。順次発言を許します。藤原道子君。
〔藤原道子君登壇、拍手〕
○藤原道子君 私は日本社会党を代表いたしまして、只今提案されましたらい予防法案に対しまして反対の意を表せんとするものでございます。
本法案が上程されまするや、全国一万二千の患者は蹶然と立ち上りまして、この法案を何とぞ人間的涙ある法案に改めて欲しい。相変らず療養所よりもむしろ収容所的な空気の強いこの法案に対しまして絶対反対の運動を展開いたしたわけでございます。私たちは、この不幸なる病に侵されましたる人たちの人権を飽くまでも尊重し、温かく保護することによつて、社会全般も又その福祉を受け、社会全般も又保護される。こういう意味においてこの法案が制定されるべきものと思うのでございます。只今委員長から御報告のありましたように、法案の中に盛られましたものは、或いは人権の尊重であるとか、或いはその福祉であるとか、いろいろの温かい名前は盛られておるのでございます。けれども、この法案は、明治四十年に制定されました浮浪癩を対象といたしますところの強制収容的な面が随所に頭を拾げておりまして、「らい」対策の根本的なものはどこにも現われていないのでございます。従いまして、この法案が制定されることによつて福祉を受けることを喜ぶべき患者が、何のためにあのような反対を起したのでございましよう。只今委員長のお話のございましたように、私どもはこの法案が衆議院から参議院に送付されまして以来、直ちに「らい」小委員会を設けまして慎重審議をいたしました。或いは参考人を呼んでその意見を聴取いたしたのでございます。又、小委員揃つて多摩全生園へ出かけまして、患者のその悲痛な訴えをも聞いて参りました。患者も、或いは参考人も、この法案の骨子となつておりまするところの強制収容には反対でございます。飽くまでも納得勧奨で行くべきである、こう申しております。或いは、所内秩序の維持、これに対しましても、これは所長に絶対の権限を与えるような、こうしたことに対しては反対である、飽くまでも所内の秩序を維持いたしまするには、お互いの相互信頼によつてのみなし得るものであつて、こうした強権は害あつて一利なし、参考人の意見はこのようであつたわけでございます。或いは又、大臣も私の質問に対しまして、飽くまでも納得で行くんだ、勧奨で行くんだ、或いはその患者の福祉も十分に考えているんだと、こういう御答弁であり、且つ藤原委員と根本的におきましては全く御同感でございますと、こういう御答弁がなされていたのでございます。ところが、飽くまでも勧奨と納得で行くと言いながら、予算面を見まするときに、「らい」思想普及費のごときは僅かに二十二万円より計上されておりません。これで一体どうして納得勧奨の運動ができるでございましよう。私は、何ら予算的措置を伴わないこの羅列的な法案によりましては、絶対に不幸なこの「らい」患者を救うことはできない、かように考えるものでございます。(拍手)而も私たちの法の審議に当りまして、私たちに、所内から、あの悲しい病に侵された人、自分の意思によらずして不幸な病に侵された人たちが、陳情を、請願を、初めは文書を以ていたしていたのでございますけれども、自分たちのこの悲願が達成されない、こういう絶望感に陥りまして、遂に議会に対しまして陳情を決行いたしまして、そうして坐り込みを何日か連続して繰返して訴えていたのでございます。いよいよ最後の法案の審議に当りましたときには、あの中から固く閉されました門扉の外から手を入れまして、入れてもらいたい、助けてもらいたい、悲痛な叫びは委員会になお聞えて来たわけでございます。この患者の福祉を守るために作ううとしておる法律に対して患者は柵の外からまるで動物か何かのように、自由なき人々が血の叫びを揚げておりまするときに、この患者の言うことを何一つ取上げてやることができなかつた。而も私たちの小委員会におきましては、全員一致で十四カ所の問題点を抽出いたしまして、どうしてもこの問題を改正してやりたい、この問題は必ず改正してやりたいというようなことが申合されました。これは全会一致でございましたにもかかわらず、遂に一条一項も改正することができなかつた。「どうぞ参議院の皆様、頼む」と手を合せて泣いて訴えておりました患者の要望に応えることができなかつた。患者のために作る法律なんです。社会の福祉のために作る法律なんです。それなのに、その対象である患者が血の叫びを以て反対しておりまするとき、なぜこれを強行しなければならなかつたか。而も政府は、この予算的裏付けのない点を私どもが追及いたしますと、それは来年度においていたします。誠に答えがあいまい模糊といたしておるのでございます。又委員の中にも、この法律は明治四十年に制定した法律よりも一歩進んでいる、だからこれは今回通してそうして次期に改正したらよろしい、こういうことを言われた。或いは、表に押しかけた患者は、この法案が握られているから騒ぐのである、この法律が通過いたしたならばこれは立派に平静に帰るのだ、こういうことを言われたのでございます。けれども、私は、若しも本当に親心ある温かい気持がございまするならば、なぜ今急ぐか、本当に法案の裏付けとなるべき予算を先ず第一にとることでございます。それと同時に、その間におきまして、患者に、こういう場合でなければ強制収容は絶対にしないのだ、所内においての処遇もこれこれこういうふうに改正するのだ、或いは又、定員増額を心から念願しておりまする患者或いは職員に対しましては、定員はこれこれの定員とし、その処遇はこうするのだということを納得させ周知せしめまして、その上に立つて法案が制定されましたならば、このような、社会に御迷惑をかけるような、そうして患者自身あのように苦しめることなく、スムースに行つたでございましよう。(拍手)ところが、法案さえできるならば、むりやりに押し通すことができるのだ、患者は法案が通つたならば泣き寝入りをするのだというような強制的なやり方が随所に破綻を来たすのではないでございましようか。(「誰がやらした」と呼ぶ者あり)私どもはこの点を追及いたしましたが、併し少数にして破れたのでございます。けれども、この法案の審議中に、患者が訴え、或いは坐り込んでおりまするときに、厚生当局はあの炎天下におきましても、なお、湯茶一ぱい患者にくれようとはしなかつた。或いは患者に対して食事を与えてくれと頼んでも、これをあえてしなかつた。そうして厚生次官は大臣の命令で食事は出さぬことに決定したのでございます。(「その通り」と呼ぶ者あり)委員会において大臣に対してそのようなことを質しましたところが、大臣は、そのような命令を出したことはございませんと、今、法案審議の過程においてすでに大臣と次官の間に食い違いがあるのです。(「全くその通り」と呼ぶ者あり)従いまして、この法案ができたのちのその運用の面におきましても、私どもは不安なきを得ないのでございます。果せるかな、法案が通過いたしましても、患者は坐り込みの現場をきれいにお掃除をして引揚げましたので、私どもは安心をいたしていた。ところが、昨日聞くところによると、厚生省の大臣室の前に患者多数が坐り込んで、なお悲願達成のためにお願いをし続けておると聞いております。厚生省の外には百人に余る患者が天幕を張つてなお頑張つているということを聞いております。法案は立派にお通しになりました。けれども、なお、この処置を何となさるお考えでございましようか。私は申上げます。断じて強権で物事はうまく行くものではない。(「そうだ」と呼ぶ者あり)殊に、患者がその生活を破壊され、人間的欲望を全部奪い取られまして、療養所へ入ることによつて利益いたしまするのは誰でございましよう。患者の犠牲において助かりまするのは、或いは利益いたしまするのは、お互い八千五百万国民ではございませんか。これを思いまするとき、一万未収容患者を加えましても僅かに一万五千名の患者、この患者の福祉を本当に十分にいたしましたとて、国家財政に破綻を来たすようなことはないと思うのでございます。(拍手)かかる意味におきまして私は絶対にこの法案に賛成するわけには参りません。
殊に私が強調いたしたいことは、療養所の定員が非常に不足でございます。そうして「らい」療養所は、同じ療養所でありながら、結核療養所に比べましてもその定員が一割にも満たない現状でございます。従いまして、患者はあらゆる作業に従事させられておる。或いは重傷患者の看病に、土工に、洗濯に、或いは炊事に、あらゆる仕事を担当させられておりますが、これらの一日の手当が僅かに十円から二十円、平均十二円五十銭でございます。これで患者に人間的な扱いをしているということが言えるでございましようか。このような涙なき当局のやり方に対して、私は飽くまでも反対し、只今私たちの本心といたしましては、どうしても法の改正をしたかつたのでございますけれども、不幸にして修正には成功しませんでした。従いまして、只今触れましたところの修正決議案の趣旨が、一日も早くこれが実現いたしまして、患者が安んじて療養のできるように、働き手を失つて絶望に陥つておりまする患者の家族が安んじて生活のできまするように、療養所に従事する職員たちが、社会の嫌悪と偏見から肩身の狭い思いをしながら、なお不幸な患者に対して奉仕しておりまする、この職員に対する処遇が一日も早く改善され増員が実現いたしまするよう、今後飽くまでも努力しなければならないと思うのでございます。
皆様、法案は衆議院から通過して来たから、参議院で修正しても、衆議院へ行つて両院協議会で若し敗れたら何にもならない。こういうことを申される方もございますけれども、両院制度の立場を考えまするとき、参議院が本当に人道的立場に立つて、そうして法の正しい修正をいたしますることは当然の権利であり、これが両院協議会で敗れるか敗れないか、やつてみなければわからないことでございます。(「異議なし」と呼ぶ者あり)それを、ただ、そういう手数を省き、ただ吉田政府の、弱い者は飽くまでも蹂躪して持てる階級にサービスすればいい、資本家のためには莫大な巨額な費用を惜しまない政府が、弱い者に対しては僅かな費用をも惜しみ、その生活が如何になりましようとも、てんとして顧りみない。こういうやり方に対しまして、我々参議院は良識を以て闘わなければならないと思うのでございます。(拍手、「その通り」と呼ぶ者あり)この「らい」患者に対しまする今回の法案にいたしましても、これこそ反動吉田内閣の一つの現われであると言わざるを得ないのでございます。
かかる意味におきまして、私はこのらい予防法案に対しましては絶対に反対の意を表明し、なお且つ我々がこの法案に反対いたしますゆえんを申述べまして、私の討論を終りたいと思います。(拍手)
○議長(河井彌八君) 加藤シヅエ君。
〔加藤シヅエ君登壇、拍手〕
○加藤シヅエ君 私も又社会党の立場を代表いたしまして、只今議題となつておりますらい予防法案の政府原案に反対し、委員長報告によりますところの九つの附帯決議事項を支持いたし、その決議事項の内容が、政府当局が厚生委員会におきましてなされた答弁のごとく、忠実に実施されることを要望し、且つ、早い機会にこの項目を骨子に織り込んだらい予防法の改正案が問題にされることを望むものでございます。(拍手)
本法案は、もともと全国十カ所の療養所に所在いたしておりますところの一万二千の「らい」患者を対象とするものでございますから、その数から申しましたら誠に小さいものかも知れません。併し、不治の病と言われ、世間からは見捨てられ、醜悪な体躯をどうすることもできないで呻吟しておりますところのこれらの不幸な人々を対象とするものでございますだけに、この法案は計り知れない深い意義と特色を持つておるものでございます。申すまでもなく民主国家にありましては、一人の人間の生命も、一人の人間の人権も、決して粗末に取扱われてはならないのでございます。(拍手)若し今日の民主憲法の下に、新らしく「らい」予防法を制定しようといたしますならば、「らい」患者を犯罪人のように収容することを以て事足れりと考えられていたような従来の法律を改めまして、人間精神と科学的態度とを十分に加味した新らしい立法が考えられなければならないことは当然でございます。即ち、この問題の中心であるところの、如何にして「らい」の伝染を防止するか、如何にして「らい」の治療を完璧にするか、如何にして不幸な「らい」患者並びにその家族を保護するか、この三点が十分に具現された法律の制定がなされなければならないのでございます。厚生委員会は、堂森委員長の下に、暑熱をものともせず、委員会、小委員会等、回を重ねること実に十数回、熱心且つ慎重に論議されましたことに対しましては、委員各位に対しまして、その労を多とし、敬意を表するものでございますが、委員会の熱意にもかかわらず、結果は、人民を取締ることよりほかに能のない官僚式な政府案の成立を見たのでございます。このことは、本案に不満を抱く患者はもとより、民主主義日本とは名ばかりで、吉田内閣の下に、世を挙げて逆コースに押し流されんとしておる今日、公共の福祉の美名にお化粧した反動立法が、ここに又一つ積み重ねられることを見ることは、(拍手)返す返すも残念至極と申さなければならないのでございます。
殊に、この法案の大きな欠陥は、不幸なる「らい」患者に何一つ将来への希望というものを与えておらないのでございます。(「その通り」と呼ぶ者あり)又、患者自身が病苦に責められて自分自身どうすることもできないのに、その患者の家族の生活保障に対しての思いやりをいたしておりません。又「らい」は忌わしい病気であるために、一人の患者が発生いたしますと、その親類縁者までが世間から白眼視される実情を考えて、当然患者と診断された本人及びその家族の幸福のための秘密性保持の工夫がなされなければならないのに、その配慮をこの法律は忘れているのでございます。又「らい」患者は、この病気の性質上、永久に家族から、社会から隔離されてしまう不幸な人生をかこつ人でございますのに、収容所におきましては、慰安の設備は余りにも貧弱で、あまつさえ思想言論の自由さえも制限を受けておるのでございます。又、収容所におきましては、軽症患者のなすところの各種の作業、今、藤原議員も申されましたように、土木の作業、お炊事の作業、看護の業務、これらの業務は療養所内の運営上欠くべからざるものであるにもかかわらず、この労働の報酬は、刑務所のそれにも及ばない一日十円とか二十円とかという支払いに過ぎないというような苛酷な待遇を与え、而も若し患者がこういうようなやり方に不満やる方なく、少しの不服従の意思表示をいたしますならば、忽ち峻厳な罰則を以て臨む、こういうような、人間愛を以て患者を遇する途が全く欠如しているところに、この法案の時代錯誤性が遺憾なく暴露されておるのでございます。
これらの欠陥に満ちた政府原案議決に際し、参議院の厚生委員会がなされましたところの九つの項目の附帯決議は、法案そのものの改正には成功しなかつたにせよ、私が今数え上げましたところの原案の欠陥に対しまして補足的な意義を持つておるものでございます。例えば二十九年度予算に計上して国立らい研究所を設立せよ、この一項目は、患者は、いつの日にかは医学が進歩して「らい」病も又全治し得るというような喜びが訪れるかという光明を見つめて、希望の中に治療を続けて行くことができるのでございましよう。又、患者の家族の生活保護につきましては、政府の推測でも現に三千五百世帯が保護を必要とするものとされておりますのに対しまして、現在四百世帯が辛うじて生活保護法にかかつているに過ぎない。こういうような現状に対しまして、この附帯決議は一般生活保護法とは別途の保護対策を設けて、これに又二十九年度からの予算に計上すべく措置をとるとの、こういう御答弁がございましたことは、生活保護の対象を拡大し得るばかりでなくて、保護を受ける方々が、地方自治体を通ずる必要がなくなりますから、こうすることによつて、患者及びその家族の秘密性保持の要望にも応えることができるであろうことは、当然且つ賢明な措置だと考えます。
このようにして今日の自由党内閣の政治の貧困そのものを余すところなく露呈したかのごときらい予防法案は、賢明なる参議院厚生委員会の皆様方の努力によりまして、附帯決議の九つの項目を以て辛うじて体裁を整えた感がございますが、私が最後に一言強く指摘いたしておきたいことは、政府がらい予防法案を通じて国民に暴露したところの強制力行使の思想でございます。(拍手)前国会における破壊活動防止法、そうして又、昨日この本会議におきまして結末を見ましたところのスト規制法のごとく、いずれも明らかに、思想言論の自由、労働者の生活権を守るところの自由に対して、公共の福祉に名をかりた強制権の発動が見られているのでございます。(拍手)思想的に貧困なることを以て特徴とするところの現政府が、納得ずくによる相互信頼感の育成に失敗いたしまして、ここに罪なき「らい」患者にまで強制権の強化を以て臨もうといたしておるのでございます。この法案は、即ち、政府原案の内容を貫く精神は、民主主義時代にあるまじき強権思想の高揚であり、官僚政治思想の復活でございます。(「その通り」と呼ぶ者あり、拍手)「らい」患者は、こんな病気にかかつただけでも、もうたくさんでございます。それなのに、この悲運をかこつておる一群の人人を、強制収容の名の下に、強盗殺人の現行犯ででもあるかのごとく、或いは又汚物を処理するような考えで、莚にくるんで、家族の者たちに別離の言葉を告げる暇も与えず、引つ捕えて、トラックに乗せて収容所に放り込むなど、全く憲法下に許されない人権蹂躙の実例は、今日、なお、患者の五割までは、こうして強制力行使の経験者であるという実情がよく物語つておるのでございます。凶悪粗暴な犯罪者を取扱う場合のほかは、すべて日本の法律から「強制」の文字、「強制」の思想は抹殺すべきではないでございましようか。(拍手)強制力を使用する政治とは暴力政治の別名でございます。不幸な病人、「らい」陳情者に対しまして固く閉されましたところの国会の門、その棚につかまつて、「らい」患者の人間性を認めて下さい、「らい」息者の人権を尊重して下さい、こういう叫び声を聞きつつ、患者たちに対しては血も涙も忘れてしまつたような強制収容権強化の法律が通過いたしましたことにつきまして、後世の歴史家は何と申すでございましようか、吉田内閣の悪政の代表的なものであるとして指摘するでございましよう。(拍手)若し現内閣の寿命がまだ継続いたすようならば、政府は、名誉回復のためにも、次の国会におきましては、必ず本法案の附帯決歳事項を骨子といたしました、強制力行使の思想を放擲した、人間精神の香り高い改正らい予防法の誕生に努力して、らい治療所とは、らい患者の喜んで集まり来たり、希望を持ちつつ病を養う所たらしめんことを強く要望いたします。
なお、私はこの機会に、らい治療所に働かれる医師、看護婦、職員、社会事業家のこれらの方々の献身的な努力に対しまして深く敬意を表しつつ、この反動的法案に反対の討論を終るものでございます。(発言する者多し、拍手)
○議長(河井彌八君) これにて討論の通告者の発言は全部終了いたしました。討論は終局したものと認めます。
これより両案の採決をいたします。
先ず戦傷病者戦没者遺族等援護法の一部を改正する法律案全部を問題に供します。本案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
○議長(河井彌八君) 過半数と認めます。よつて本案は可決せられました。
―――――・―――――
○議長(河井彌八君) 次に、らい予防法案全部を問題に供します。本案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
○議長(河井彌八君) 過半数と認めます。よつて本案は可決せられました。
(注意)加藤シヅエは、第一回国会衆議院厚生委員会(一九四七年一二月一日)で、ハンセン病患者に対する断種を合法化した「優生保護法」案の提案理由の説明に立ち、国民優生法では「悪質の遺傳防止の目的を達することが、ほとんどできない」から、「豫防醫學を全面的に採用して、母體を保護し、優良な子孫を生みたいということを主張」している。