県議選での特例選挙区設置の合憲性
名古屋高判一九九二・八・五判タ七九二号二六四頁
〔事件の概要〕
一九九一年四月七日に行われた愛知県議会議員選挙について、県下の選挙人Xらは、県
選挙管理委員会Yに対して、本件選挙は約五倍の投票価値の較差のもとに行われたのであ
るから違憲、違法であって本件選挙もまた無効であるとして、公選法二〇二条一項に基づ
いて異議申立を行った。被告Yは、異議申立は公選法二〇二条の規定の趣旨に合致しない
不適法なものとして却下した。そこでXらは、却下の取消、選挙の無効の判決を求める訴
えを提起した。愛知県では、過疎地域の二つの選挙区を「特例選挙区」(公選法二七一条
二項=その区域の人口が議員一人当たりの人口の半数に達しなくなった場合でも、当分の
間、条例でその区域を一選挙区とする)としていたが、選挙当時、選挙区間の最大較差が
一対五・〇二倍、配当基数(=各選挙区の人口を議員一人当たりの人口で割った数)では
三分の一を下回るまでになっていた。
〔争点〕
(1)公選法二七一条二項による地方議会議員選挙での特例選挙区の設置は、憲法一四条や
公職選挙法一五条七項の求める投票価値の平等の原則・人口比例主義に反しないか。(2)特
例選挙区の設置が違憲ではないとすれば、許容される範囲はどのようなものか。
〔裁判所の判断〕
「(特例選挙区の設置の趣旨は)いわゆる高度経済成長下にあって産業構造の変化等に伴
う急激な人口異動により生じた過疎地に対応し、また都道府県議会議員の選挙区制につい
ては歴史的に形成され存在してきた地域的まとまりを尊重し、その地域住民の意向を都道
府県政に反映させる方が、長期的に必要であり、そのための地域代表を確保する必要があ
るというところにあると解される。そして、その趣旨は合理性を有すると認めることがで
きるから、右規定自体が憲法に違反するものとは必ずしもいえない。」
「公選法二七一条二項は当該区域の人口が議員一人当たりの人口の半数を著しく下回る場
合、すなわち配当基数が〇・五よりも著しく下回る場合には、原則として特例選挙区の設
置を認めない趣旨であると解される。ところで、配当基数が〇・五よりも著しく下回る場
合とは、・・・当該選挙区の配当基数が、議員一人を配置すべき平均的な数値である配当
基数一に対し投票価値が三倍の較差となる三分の一に達した場合をいうものというべきで
あり、したがって、この場合には特例選挙区の設置を認めるべき特段の合理性がない限り
、その設置は認められないものといわなければならない。」
二つの選挙区を特例選挙区として存置したことに合理性を認めることはできず、本件定
数配分は、その全体が違法の瑕疵を帯びるものというべき。本件選挙を無効とすることな
く、行政事件訴訟法三一条一項に示された一般的な法の基本原則に基づき、原告の請求を
棄却するとともに、当該選挙の違法を宣言すべきものと解するを相当とする。〔原告の請
求を棄却。ただし、選挙は違法〕
〔解説〕
公職選挙法は、都道府県議会の議員定数について、人口比例主義をもとめている(一五
条七項)。それに、ある選挙区の人口が、議員一人当たりの人口(その県の人口を議員定
数で割った数)の半数に満たないときは「強制合区」がなされる(二項)。しかし、半数
に達しなくなった場合においても、その選挙区を設けることのできる旨の規定をもってい
る。いわゆる「特例選挙区」である。これまで、この特例選挙区をどのような場合に置く
ことができるのか、特例選挙区の許される人口較差の範囲はいかほどか、について、争わ
れてきた。学説には、特例選挙区の設置が認められるのは島部選挙区のような他の選挙区
との合区が著しく困難な場合に限られるとする見解もあるが、最高裁は、特例選挙区の設
置はそのような要件を必要とせず、県議会の合理的な裁量の行使に委ねられるとする一方
で、「配当基数が〇・五よりも著しく下回る場合」には設置を認めない趣旨であると解し
ている。本判決は、特例選挙区の設置規定については違憲とはいえないとしつつ、配当基
数が三分の一以下になった場合には特段の合理性がない限りその設置は認められない、と
して、この二つの特例選挙区の設置を違法とした。配当基数〇・三五の特例選挙区の設置
を適法とした最高裁判決(八九年一二月一八日第一小法廷)がこれまであるだけに、本判
決の基準は注目されよう。