地蔵像の建立・移設への市の関与の合憲性
最一判1992年11月16日判時1441号57頁、判タ802号89頁
〔事件の概要〕
一九七八年、市営住宅の建替にあたって、付近住民がその敷地内に地蔵像を建立したい
ので、敷地の一部を無償で町会Aに使用させてほしい旨市に申し入れ、市は建替事業に地
元の理解を得るためには、その要望を聞き入れた方が得策である等を勘案して、この申し
入れを受諾し、敷地の使用を許可した。また、同じ頃、別の町会Bからも、戦前から付近
の私有地にあった地蔵像を市が建設を予定していた老人憩いの家の敷地(市有地)に移設
したいとの申し入れがなされ、市は、その敷地の無償の転貸を承認した。市のこれらの行
為に対して、住民Xは、地蔵像のための市有地の無償貸与は憲法二〇条、八九条に違反す
るとして異議を大阪市監査委員会に申し立てたが請求を棄却されたので、市長Yに対し市
有地の明渡しを町会A・Bに請求することを怠っているのは違法であることの確認を求め
る住民訴訟を提起した。
〔争点〕
(1)地蔵像の建立・移設について、無償で市有地を使用することを市が認めたのは、憲法
二〇条、八九条に反しないか。i地蔵像は宗教性の希薄な、伝統的習俗といえるか。(2)地
蔵像を維持・管理する町会は、憲法八九条にいう「宗教上の組織若しくは団体」にあたる
か。
〔裁判所の判断〕
(原審の事実認定によれば)(1)大阪市が各町会に対して、地蔵像の建立・移設のため、
市有地の無償使用を承認するなどした意図、目的は市営住宅の建替事業を行うに当たり、
地元との協力と理解を得て、事業の円滑な進行を図るとともに、地域住民の融和を促進す
るという何ら宗教的意義を帯びないものであった。(2)寺院外にある地蔵像に対する信仰は
、仏教としての地蔵信仰が変質した庶民の民間信仰であったが、それが長年にわたり伝承
された結果、その儀礼行事は地域住民の生活の中で習俗化し、地蔵像のもつ宗教性は希薄
なものになっている。(3)各町会は、その区域に居住する者等によって構成されたいわゆる
町内会組織であって、宗教的活動を目的とする団体ではなく、地蔵像の維持・運営に関す
る行為も、宗教的色彩の希薄な伝統的習俗的行事にとどまっている。この事実関係の下に
おいては、大阪市が各町会に対して、地蔵像の建立・移設のため、市有地の無償使用を承
認した行為は、その目的・効果にかんがみ、その宗教とのかかわり合いが我が国の社会的
、文化的諸条件に照らし信教の自由の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる
限度を超えるものとは認められず、憲法二〇条三項あるいは八九条の規定に違反するもの
ではない。〔上告を棄却〕
〔解説〕
第一審判決は、最高裁の津市地鎮祭判決(七七・七・一三)の「目的・効果」基準を引
用して、地蔵像はその宗教的色彩をまったく否定することはできないから市の行為は宗教
とのかかわり合いをもつ行為であるとしたが、市の行為の目的は「世俗的」なものであり
、地蔵像の宗教性の希薄さを理由になんら仏教その他特定の宗教を援助・助長・促進して
いるものでもなく、寄附金等を強制していないから他の宗教に対する圧迫・干渉等にはあ
たらないとした。控訴審判決・上告審判決もこの判断を踏襲している。
しかし、「目的・効果」基準の適用にさいして、地元住民との融和という曖昧な目的で
市の宗教的行為への関与が正当化されるとすれば、「目的」基準が簡単にクリアされてし
まうことにならないか。また地蔵像の設置後、地蔵の由来と礼拝を勧める趣旨の看板を撤
去させたり、行事に際して習俗の範囲を逸脱しないよう注意して、宗教性を排除しようと
している事実からわかるように、場合によっては地蔵像設置が伝統的習俗とはいえないこ
ともありうる。にもかかわらず、地蔵像の建立・移設のために市有地の貸与をあっさり認
めたり、その返還等をなんらもとめなかったことは、宗教上の中立をもとめられる自治体
として適切な対応であったかどうか、その「かかわり合い」の程度も問題とされる余地が
のこされている。また判決は「宗教上の組織」について狭く解して(=狭義説)町会がそ
れにあたらないと判示したが、町会や遺族会などが宗教的な行為を行うことの多いわが国
の風土にあっては適切な解釈といえるか、もっと慎重な検討が必要ではないか。