役目は終わった細川首相


 これほど早く細川首相が辞めるとは思わなかったが、つい二日前の「辞めたい」という 酒席での「ジョーク」や駐日ドイツ大使が「失望への備え必要」と述べて欧米諸国が期待 した成果をあげないまま細川政権が終わる可能性に言及したと伝えた八日の南日本新聞の 小さな記事からして予想されなかったわけではない。「辞めるのは時間の問題」と私自身 は考えていた。コメの輸入自由化受入れ、福祉目的税構想、新・新党構想など、「政治改 革」法の成立以後に細川首相が提出した政策・構想は、連立与党の中で対立を深めるもの でしかなかった。それに女房役の武村官房長官との「官邸内離婚」に示されているように 政権をささえる基盤がきわめて弱くなってきていたし、頼みの国民の支持率も急低下して いた。細川首相に残されていた政策的な選択は、「一・一コンビ」(新生党の小沢一郎代 表幹事・公明党の市川雄一書記長)に依拠して、国民の不人気覚悟でつっぱしるか、政策 は官僚にまかせて何もしないか、それとも辞めるのか、その三つしかなかった。なにもし ない、というのは、連立与党の政策は各党で大きく異なっており、小選挙区制を導入して 政界再編をめざす「政治改革」以外には政策上の公約数がない以上、新しい政策は不可能 だったということである。その結果の辞意表明であり、政権に就いた当初から言われてい たように、「政治改革」法の成立で、政策も体質も違う連立与党にかつがれた細川首相の 役目が終わったということだろう。
 辞意表明の記者会見では、国会で問題になっていたスキャンダルについて、佐川からの 一億円の借入金について利息を政治資金としてつかっていた、実態がはっきり説明されな かったが首相の政治資金を知人を通じて違法の疑いのある運用をしていた、という新事実 が首相自身の口からでて、びっくりした。本当に昨晩はじめてわかったのかも疑わしいし 、これまでの国会での答弁の二転三転もくわえて、首相自身の「政治倫理」が厳しく問わ れて、当然だろう。金の疑惑で首相を辞めたのは、田中角栄、竹下登に次いでということ になるが、そういえば細川首相も自民党時代、田中派の一員だった。「政治改革」をかか げて首相になった細川さんの最後の会見が、みずからのスキャンダルの弁明であったのは 、皮肉な結末だった。
 おそらく、今後の政界の関心は、次の首相が誰になるのか、どういう連立の枠組みにな るのかに向かっていくのだろう。しかし、国民が細川首相に期待したのは、金権政治に代 わる「クリーンな政治」であったのだから、次に来る政権にとっても、企業からの献金の 規制をはじめ政治資金規正法の強化や政治倫理の確立が最優先の課題の一つでなくてはな らない。そうした課題意識のない、政権をめぐる権力闘争がこれからしばらく続くとした ら、短かった八か月の細川政権からの教訓をなにも学ばなかったことになるだろう。

                    鹿児島大学教養部助教授・憲法学
                           小栗 実