日本の政治はどうかわるか−小選挙区制が実現したら−


 現在、国会では「政治改革四法案」が上程されて、とくに小選挙区制の導入を柱とする 「公職選挙法改正案」をめぐって、与野党で議論がなされています(六月六日現在)。リ クルート事件をきっかけに「政治改革」がさけばれて、九一年には法案がだされましたが 、廃案となり、また佐川事件がおきて、「政治改革」が焦点となっています。この「四法 案」とは「公職選挙法改正案」のほかに、「政治資金規正法改正案」「政党助成法案」そ して「選挙区割委員会法案」をさします。それぞれいろいろな法的問題点をもっているの ですが、最近では、小選挙区制の導入による「政治改革」にばかり焦点があつまっていま す。そこで、そもそもなんのために「政治改革」がもとめられているのか、をまず考えて みる必要があると思われます。

そもそもなんのための政治改革なのか

 一つには、ロッキ−ド事件・リクルート事件さらに佐川事件とつづく「政治家とカネ」 の癒着への批判がきわめてつよいことが特徴です。しかし、もう一つの特徴は、そうした 不満が「今の政治がわるい」からはじまって「改革が必要だ」さらに「憲法がわるい」と いう主張にとりこまれてしまっている現状もあらわしていると思います。そして、政治不 信の声が、「政治改革」の名のもとに選挙制度改革と「一括」という議論にうまくとりこ まれてしまっている。 同時に、このような政治不信をどうやって解決していったらいい のかについてのアンケート調査によると、「政治腐敗の防止」が第1位で約五〇%。第二 位が「政治資金の規制」で約二三%、ようやく第三位に「選挙制度改革」がでてきます。 約一六〜一九%です。いまの政治が「腐敗」しているとの現状認識をしめしていて、そこ をなんとか変えなくてはと思っている国民が多いことを示しています。「選挙制度改革」 との「一括」がそれほど緊急の課題だとは世論はなっていない。新聞などが選挙制度改革 についてばかり報道するので、国民のなかでは、なぜ今の政治の腐敗を解消するのに、選 挙制度をいじる必要があるのか、あまり腑に落ちていない現状もあると考えられます。

「小選挙区制の導入」をめぐる特色はなにか。

 大きくいえば二つの特色があると思います。第一に、この問題をめぐって、各政党の対 応が大きくかわってきました。自民党は九一年の「政治改革」論議のときには「小選挙区 制・比例代表並立案」をかかげていましたが、内部でも反対意見が表面化しました。今回 も当初は、自民党は単純小選挙区制をかかげていました。なぜこの案かというと、単純小 選挙区制なら、自民党が四九〇議席くらいを獲得できますから自民党の現在の議席はほと んど維持できます。小選挙区制をいまの日本で導入すれば、自民党以外の野党の議席はほ とんどなくなるでしょう。そして「妥協」案として、「小選挙区・比例代表並立制」が浮 上してきました。その背景には自民党議員の相当な危機感がある。この政治不信のなかで 、自分たちが生き残るためには「政治改革」はどうしてもしなくてはならない。宮沢首相 は元来中選挙区制支持者といわれていましたが、いまのところ、小選挙区制の擁立におお きくかたむいているらしい。このことも彼なりの危機感をあらわしているのではないでし ょうか。金丸逮捕の直後には、「政治資金」「政治腐敗」だけを切り離して、今国会で改 正をはかろう(もちろん、その「改正」の中身が問題ですが)という動きが表面化しまし た。それが、どうして「一括」へとながれていってしまったのか。今回は、国民の政治不 信はかなりひどいので、政治資金問題はかなりふみこんだ内容になるだろう。とすれば、 選挙制度改革をともなわないかぎり、自分たちの地位が保持できない、と自民党の議員た ちの多くが考えた、と新聞が報じていました。おそらく、それは本音であったでしょう。 そのようにして「一括」にながれていき、野党も、公明党などが政界再編を合言葉にこれ にのっていきました。この「一括」論によって、マスコミなども興味が選挙制度のほうに うつっていき、議員も自分の有利な「小選挙区」制の導入に邁進しようとしています。
 野党のほうでも、これまではすべて「中選挙区のもとでの抜本的是正」といっていたの が、いまでは共産党しかそのことを主張していません。その背景には「政権交代可能な制 度」をもとめる連合のうごき、なんとしても政権につきたいと考えて羽田派と手を組んで 、政界再編にすすもうとしている公明党のうごき、野党に「対案」をもとめる「現実主義 」、反対にいうと自民党の案とおなじ土俵の上にのってこそ「現実的」だと考える一部の マスコミ論調があると考えています。
 第二に、マスコミも変わりました。これは、前回の一九九一年のときにすでに指摘され ていましたが、一九七三年の田中内閣の「小選挙区制」のとき、たとえば朝日が「四割の 得票で九割の議席」とかのキャンペーンをはっていたのと比べると、まさに隔世の感じが します。どうして、そうなってしまったのか、は実は重要なマスコミ論のテーマなのです が、簡単にいえば、「政府との対決を避ける姿勢」「現実主義という名の迎合」「改革と いうことで原点を失っている」などの批判があたるでしょう。先日も梶山幹事長が衆議院 を小選挙区制に、そして参議院を比例代表制にする「セット」の改革案をだしましたが、 南日本新聞の社説は「改革反対派」となづけて批判していました。批判そのものはあたっ ているところもあると思いますが、民間政治臨調・羽田派・自民党の若手議員などを「改 革派」とよぶ論調がつづいています。反対に「小選挙区制反対」などというと「守旧派」 とか「現状維持派」とかレッテルをはられる事態がこのところつづいています。

「中選挙区制=制度疲労」論は正しいか

 自民党が小選挙区制を正当化するおおきな理由の一つは、「中選挙区制だと、自民党の いろいろな派閥から立候補するので、政策ぬきで、利益誘導型の選挙になる、その同士打 ち、挙げ句のはては金権選挙となってしまう」というものです。つまり、自民党内の事情 がおおきく影響しています。小選挙区制になると、利益誘導型の選挙でなくなるというの ならば、なにも奄美の選挙をみなくても現在のたとえば参議院の選挙区代表の多くをみて みれば、あきらかになるでしょう。基本的に、今の自民党政治、日本の保守政治の基本的 な構造は「利権誘導型」です。その典型が田中角栄の新潟三区であり、竹下登の島根全県 区であり、金丸信の山梨です。地元への道路とか橋とかの建設を公約にした政治家と企業 の癒着、住民の支持のそれへの獲得、の上に成り立っているこの「利権誘導型」政治は、 小選挙区制になったからといってけっしてかわりません。 この「利権誘導型」政治はど うしたら変えることができるか、これは実は、日本社会全体の変革にかかわるテーマで、 それほど簡単に結論がでてきませんが、たとえば、政治・官僚・財界の「三角同盟」とよ ばれますが、大企業のなかで労組などがいかに企業のやりたい放題を規制できるか、ある いは民主的な規制を法などによってどうおこなうのか、企業への天下りを制限するなどの 官僚の民主的統制なども課題です。しかし、企業と政治家との癒着の大きな結び目になっ ている企業献金の禁止や、飲食・饗応などの政治腐敗の防止ができるとしたら、この「利 権誘導型」政治を打破していくきっかけにはなるでしょう。

「政界再編」論のねらい
                         
 野党の側の小選挙区制支持の議論の特徴は、「政権交代」論にあります。「政権交代」待 望論が野党の支持者のなかできわめてつよいのも特徴です。これまでまあ良識的な学者と 考えられていた何人かの学者が「小選挙区制」支持に傾いているのですが、その主観的な 意図は、自民党の長期政権を打破するきっかけにしたい、国民が政権を直接選択できるよ うな「イギリス型」選挙あるいは「アメリカの大統領選挙型」に移行させたい、というも のです。
第八次選挙制度審議会の答申には「政権が選挙の結果に端的に示される国民の意思によ って直接に選択されるようにする」とイギリスの選挙をほぼ念頭においた結論がみちびき だされていますが、しかし、小選挙区制をいまの日本に採用したからといって、ただちに 自民党が政権を失う事態がおこるとはあまり考えられない。以前に小沢幹事長(当時)が いっていましたが1回目の選挙は、自民党が圧勝する。そして生き残りたい野党はその次 には「連合」をくむことを余儀なくされる。そのときは「政権交代」のチャンスがでてく るかもしれないというのです。そこには小選挙区制の実現によって野党の「政界再編」を のぞむ気持ちが露骨にでています。「政界再編」のなかでキャスチング=ボードをにぎろ うという意図から選挙制度が論じられているので、比例代表を基本原理とする「併用制」 から、すぐ「連用制」に変わりました。ひょっとすると、自民党からのエサで「並立制」 の定数をいじったあたりの案がでてきたらすぐとびつく野党もありそうです。「理念なき 選挙制度改革」という批判すらでてきました。
 そのような「政界再編」とはいったい具体的にはなにか。「保守二党」論とか、「政権 交代の可能な健全野党」とかいわれますが、政策的にみると、安保条約や自衛隊は合憲、 大企業による企業社会の論理にはそれほど異議をとなえない「健全野党」となるでしょう 。とすればそもそもなんのための「政治改革」かが改めて問いなおされなくてはならない でしょう。
 そして、そうした「健全野党」に与しない政党は「異質な分子」として完全な少数派に 封じ込めてしまう戦略です。その「封じ込め」戦略は九〇年代の今日、労働戦線・マスコ ミ・論壇においてある程度成功しているといわざるをえませんが国会においても、そうい う「封じ込め」を実現しようというのが、この「小選挙区制」をめぐる動向ではないか、 と考えています。
(この小論は、5月下旬に講演した内容を文章にしたものです。)

       (科学者会議鹿児島支部ニュース九三年度1号、一九九三年六月二八日)