3 天皇の「象徴としての行為」

 日本国憲法は、第1条で「天皇は、日本国の象徴」と明記しているが、象徴とは何

か、象徴たる天皇はどのような行為ができるのか、憲法上よく問題になる。第4条第

1項をみると「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関す

る権能を有しない」とあり、この憲法の定める国事に関する行為(普通、天皇の国事

行為とよばれている)は第6条、第7条に列挙してある。しかも、これらの国事行為

にはすべて内閣の助言と承認を必要とし、内閣がその行為について責任を負うのであ

る(第3条)。つまり、天皇の行為は、形式的・儀礼的な行為に限られ、かつその行

為についても天皇みずからの判断ではできないようになっている。「どうして、こん

なに天皇の行為にきびしくチェックをかけるのか」と疑問に思う人もいるだろうけれ

ど、その理由については、この本の「第1章 日本憲法史」をしっかり読んでほしい。

日本国憲法は、天皇が主権をもち、国の最高の統治者だったことをきびしく拒絶した

ところから出発した。

 ところが、憲法に書いてある国事行為ではなく、また天皇の全くの私的な行為とも

いえない行為が最近ふえてきている。その代表的なものは、「皇室外交」とよばれる

外国への訪問や海外からの賓客の接待・晩餐などである。国会の開会式に招かれて数

段高い「玉座」から読む「おことば」、国体や全国植樹祭への出席なども憲法に書か

れていないが、「象徴としての行為」とされている。外国との関係では天皇は「元首

」として扱われている(日本政府はそう扱われることを否定していない)し、政治的

な内容をもつ「おことば」を晩餐会などで読み上げることも多い(天皇の発言原稿は

政府がつくっている)。また1973年、防衛庁長官が自衛隊の整備計画を昭和天皇に「

内奏」したところ、天皇は自衛隊激励ともとれる発言を行った(長官は天皇のこの発

言に大感激して披露したが、国会で問題になり、後からこのような発言はなかったと

撤回し、辞任した)。天皇はこのように国政に関して発言することは憲法上許されな

い。

 即位した新天皇は「即位後朝見の儀」で「皆さんとともに日本国憲法を守り、これ

に従って責務を果たす」と述べた。憲法は第99条で天皇にも憲法擁護義務を課してい

る。天皇が「憲法を守る」とはどういうことか。それは、天皇の行為にきびしくしぼ

りをかける憲法の精神を再確認し、政府の内外政策の正当化のために、天皇を政治的

に「利用」することを固くいましめることだ。