8 国政調査権一議院のもっている「武器」
いまから20年ほど前、こどもたちの間で一つの言葉がはやった。親や先生から何か
都合の悪いことを問いつめられると、こどもたちはつい言ったものだ。「全く記憶に
ございません」。ロッキード疑獄事件で両議院によって証人喚問された政商が事件の
核心をつかれそうになると、きまってこういって逃げようとしたさまがテレビで放映
されて、この言葉は、その当時のはやりのギャグになった。
航空機購入の際、政府高官などが便宜をはかり、ロッキード社からワイロをうけと
ったのではないかとの疑惑が広がったとき、その事件の重大さに気づいた議院は自ら
証人・参考人をよんで調査をおこなった。こうして、裁判による法的責任の追及とは
別に、政治的な責任の追及がなされた。最近でも、汚職事件がおきると、たまに国会
で証人喚問がおこなわれることがある。
日本国憲法は、国政にかんする調査権限を国会の両院に与えている(62条)。一般
に、この権限は国政調査権と呼ばれ、立法権・条約承認権・内閣総理大臣指名権など
とならんで、国会の両院がもつ権限として、とりわけ重要な権限である。国会で多数
を占める政党によって内閣がつくられ、そしてその内閣による法案提出が大部分とな
って、事実上「内閣政治」が中心になっている今日、行政権にたいする民主的統制に
とって、この国政調査権のもっている意義はますます重要になってきている。国政調
査権の及ぶ範囲は、基本的には国政全般にわたると解釈されている。だから財政・安
全保障・教育など、どんなことでもすべて議論の対象になりうる。ただし行政権の民
主的な統制という基本的な目的のために国政調査権は活用されるのであって、一市民
のプライバシーをあばきだすなど、個人の人権を侵害するために用いてはならないし、
刑罰を科する裁判に代わるものでもない。
政治家の汚職に関係する事件では、この国政調査権の活用が大いに注目された。こ
の時ばかりは国会中継が話題になったし、国会に対する期待も高まった。しかし、反
対に、「人権保護」を理由にこの権限をできるだけ制限しようとする主張が政治家の
中に根づよくあることも事実である。アメリカでは、きわめて強い調査権限が議会に
あることが知られている。その調査を実質化する保障として、スタッフや予算も日本
に比べてはるかに充実している。それにひきかえて、わが国の実情はどうか? もう
一度考えてみなくてはならない問題である。